#子墨子 曰、令之俯則俯、令之仰則仰、是似景也。処則静、呼則応、是似響也。君将何得於景与響哉。【1】

#魯陽の文君、#子墨子 に謂(い)って曰く、我に語(つぐ)るに忠臣を以てするものあり。之(これ)をして俯(うつむ)かしむれば則ち俯き、之をして仰(あお)がしむれば則ち仰ぐ。処(お)れば則ち静かに、呼べば則ち応ず。忠臣と謂うべきか。【2】

#子墨子 が、「あなたのいう義とは、つとめて人のために働き、財物を人に分けてやることですか」と聞いたところ、#呉慮 は、そうだと答えた。そこで子墨子は次のようにいった。「私もかつてそのように考えたことがある。自分で耕作して天下の人を養おうと考えた。【2】

#魯 の南の片田舎(いなか)に住む #呉慮(ごりょ)という男は、冬には陶器をつくり、夏には耕作し、自らを聖王の #舜(しゅん)になぞらえていた。#子墨子 はそれを聞いて、会った。呉慮が子墨子に向かって、「一にも二にも、義を行なうだけだ。口さきでいう必要はない」といった。【1】

#魯君 が寵愛していたものが死んだ。魯人がそのために哀悼文を作ると、魯君は喜んでこれを用いた。#子墨子 はその話を聞き、「哀悼文は死者生前の志を述べるものである。いま他人の作ったのを喜び、用いるのは、狸のような小動物を馬の代用として、車を引かせるようなものである」といった。【2】

#魯君 の嬖人(へいじん)死す、魯人 之(これ)が為に誄(るい)す。魯君 因(よ)りて説(よろこ)びて之を用う。#子墨子 之を聞きて曰く、誄は死人の志を道(い)うなり。今 因りて説[悦]びて之を用うるは、是れ猶(な)お来[猍;貍]首を以て服に従わしむるがごときなり。【1】

#子墨子 曰く #翟(てき)嘗(こころ)みに之を計らん。翟慮(はか)るに、耕して天下の人を食(やしな)わんに、盛んにして然る後一農の耕に當る。諸(これ)を天下に分てば、一升の粟を得る能わず。藉(かり)に以て一升の粟を得るとするも、其の天下の飢者を飽かしむる能わざること、既に睹(み)るべし。【1】

#子墨子 曰く、「中国の俗と雖(いえど)も亦(また)かくのごとし。その父を殺してその子を賞す。何をもってかその子を食いて、その父を賞する者に異ならんや。いやしくも仁義を用いずば、何をもってか夷人(いじん)のその子を食うを非とせん」。【1】

#子墨子 曰。#翟(てき)嘗計之矣。翟慮耕而食天下之人矣。盛。然後當一農之耕。分諸天下。不能人得一升粟。籍而以爲得一升之粟。其不能飽天下之飢者。既可睹矣。【2】

#魯陽の文君、#子墨子 に語りて曰く、「#楚 の南に啖人(たんじん)の国なるものあり。その国を橋(こぞ)りて、この長子生まるれば、解きてこれを食い、これを弟に宜(よろ)しと謂(い)う。美なればもってその君に遣(おく)り、君喜びてすなわちその父を賞す。あに悪俗ならずや」。【2】

#魯 の南の鄙(ひな)の人、#吳慮(ごりょ)なるものあり、冬は陶し、夏は耕し、自ら #舜 に比す。#子墨子 聞いて之を見る。吳慮、子墨子に謂う。義のみ義のみ、焉(な)んぞ之を言うを用いんや。子墨子曰く、子の所謂(いわゆる)義も亦力以て人に勞するあり、財以て人に分つありや。吳慮曰く、有り。【1】

#子墨子 が #魯陽の文君 に向かっていわれた。「世俗の君子はみな、小事を知って大事を知りません。いま一匹の犬や豚を盗む人があると、これを不仁といいます。ところが一国一都を奪うと、これを義の行いとします。【1】

#子墨子、#魯陽文君 に謂いて曰く、世俗の君子、皆小さき物は知れど、大なる物は知らず。今、此(ここ)に人あり、一犬一彘(てい)を竊(ぬす)まば、則ち之を不仁と謂う。一國一都を竊まば、則ち以て義と爲せり。【2】

#子墨子、#魯陽の文君 に謂(い)って曰く、世俗の君子、皆小物を知って大物を知らず。今、ここに人あって、一犬一彘(てい)を竊(ぬす)めば則ち之(これ)を不仁と謂うも、一国一都を竊(ぬす)めば則ち以て義と為す。【1】

子墨子曰。子欲學子之子。今學成矣。戰而死。而子慍。而猶欲糶糴讐則慍也。豈不費哉。 #子墨子 曰く、子、子(し;なんじ)の子(こ)を學ばしめんことを欲し、今學成り、戰って死して子慍(いか)る。是れなお糶糴(ちょうてき)の讐{售;う}れば則ち慍らんと欲するがごとし、豈(あ)に費{冗費}ならずや。【2】

魯人有因子墨子。而學其子者。其子戰而死。其父讓子墨子。 #魯人、#子墨子 に因(よ)って、其の子を學ばしむる者あり、其の子戰って死す。其の父、子墨子を讓(せ)む。【1】

#魯君 が #子墨子 に向かって、「余に二人の子がある。一人は学問を好み、他の一人は他人に財産を分けるのを好みます。どちらを太子とすればよいでしょうか」。 子墨子は答えていった。「それだけでは分かりません。【1】

#子墨子、#魯陽の文君 に謂いて曰く、其の鄰国を攻め、其の民人を殺し、其の牛馬(ぎゅうば)粟米(ぞくまい)貨財(かざい)を取り、則ち之を竹帛(ちくはく)に書し、之を金石に鏤(ちりば)め、以て銘を鐘鼎(しょうてい)に為(つく)り、後世子孫に伝遺して曰く、我が多き{勲功}に若(し)くは莫(な)しと。【2】

#魯君、#子墨子 に謂いて曰く、我れ二子あり、一人は學を好み、一人は人に財を分(わか)つを好む、孰(いず)れか以て太子と爲して可ならん。子墨子曰く、未(いま)だ知るべからず。【1】

#魯君、#子墨子 に謂って曰く、我れ二子あり、一人は學を好み、一人は人に財を分(わか)つを好む、孰(いず)れか以て太子と爲して可ならん。子墨子曰く、未だ知るべからず。【1】

#子墨子 曰く、之を俯せしむれば則ち俯し、之をて仰がしむれば則ち仰ぎ、是れ景(けい;かげ)に似たり。處[処;お]れば則ち靜かに、呼べば則ち應[応;おう]ず、是れ響(きょう;ひびき)に似たり。君將に何を景と響とに得んとするや。【2】

#魯陽の文君、#子墨子 に謂(い)って曰く、我に語(つぐ)るに忠臣を以てするものあり、之(これ)をして俯(ふ)せしむれば則ち俯し、之をして仰(あお)がしむれば則ち仰ぎ、處[処;お]れば則ち靜かに、呼べば則ち應[応;おう]ずと、忠臣と謂うべきか。【1】

#魯君 が寵愛していたものが死んだ。魯人がそのために哀悼文を作ったところ、魯君は喜んでこれを用いた。#子墨子 はその話を聞き、「哀悼文は死者生前の志を述べるものである。いま他人の作ったのを喜び、用いるのは、狸のような小動物に馬車を引かせるようなもので役に立たない」といった。【1】

#魯君 の嬖人(へいじん)死す、魯君{人;じん}之(これ)が爲に誄(るい)す。魯人{君;くん}因(よ)りて説{悦;よろこ}びて之を用う。#子墨子 之を聞きて曰く、誄は死人の志を道(い)うなり。今因りて説[悦]びて之を用うるは、是れ猶(な)お來[猍;貍]首を以て服{服馬}に從わしむるがごときなり。【2】

#子墨子 は、「中国の習俗もやはり同じです。父を殺したのにその子が賞せられるのは、子を食べて父を賞するのと変りがありません。もし仁義の行いをしないならば、どうして蛮人が子供を食べるのを非難できましょうか」と答えた。【2】

#子墨子 曰く、「#鄭人 二世その君を殺して、天、誅を加え、三年全(まった)からざらしむれば、天誅(てんちゅう)足(た)れり。今また兵を挙(あ)げ、もって鄭(てい)を攻めんとして、わが鄭を攻むるは、天の志に順(したが)うなりと曰(い)う。【2】

#魯陽の文君 が #子墨子 に対し、「#楚(そ)の南に食人国があり、その国ではすべて長男が生まれると身体を裂いて食べます。そうすることが次に生まれる弟のためだというのです。しかもその肉が美味であると主君に贈り、主君が満足するとその父をほめます。まことに悪い習俗です」といった。【1】

#子墨子 曰、#鄭人 二世殺其君、而天加誅焉、使三年不全、天誅足矣。今又挙兵、将以攻鄭、曰、吾攻鄭也、順於天之志。譬有人於此。其子強梁不材。故其父笞之、其隣家之父、挙木而撃之、曰吾撃之也、順於其父之志、則豈不悖哉。【1】

#子墨子 曰く、「中國の俗と雖(いえど)も亦(また)猶(な)お是のごとし、其の父を殺して其の子を賞す。何を以てか其の子を食いて、其の父を賞するものに異ならんや。苟(いやしく)も仁義を用いずんば、何を以てか夷人(いじん)の其の子を食うを非とせん」。【2】

#魯陽 の #文君、#子墨子 に語りて曰く、「#楚 の南に啖(たん)人の國なる者あり、其の國こぞりて、長子生るれば則ち解きて之を食(くら)い、之を宜弟(ぎてい)と謂う。美なれば則ち以て其の君に遺(おく)り、君喜んで則ち其の父を賞す。豈に惡俗ならずや」。【1】

#子墨子 曰く、「夫(そ)れ天の天下を兼有するは、また君の四境の内を有(たも)つがごとし。今兵を挙(あ)げて以(もっ)て #鄭 を攻めんとす。天誅(てんちゅう)それ至らざらんや」。【1】

#子墨子 曰、夫天之兼有天下也、亦猶君之有四境之内也。今挙兵将以攻 #鄭。天誅其不至乎。#魯陽文君 曰、先生何止我攻鄭也。我攻鄭、順於天之志。#鄭人 二世殺其君、天加誅焉、使三年不全。我将助天誅也。【2】

#魯陽(ろよう)の #文君(ぶんくん)、#鄭(てい)を攻めんとす。#子墨子 聞きてこれを止め、魯陽の文君に謂いて曰く、「いま #魯 の四境の内、大都はその小都を攻め、大家はその小家を伐ち、その人民を殺し、その牛馬・狗豕(くし)・布帛(ふはく)・米粟(べいぞく)・貨財を取らしめば、いかん」。【2】

#子墨子、#魯陽の文君 に謂うて曰く、世俗の君子、皆、小物を知りて大物を知らず。今、此(ここ)に人あり、一犬一彘(てい)を竊{盗;ぬす}めば則ち之を不仁と謂うも、一國一都を竊めば則ち以て義と爲す。【2】

#子墨子 が、#魯陽文君 に向って、諸侯たちが其の鄰國を攻め、其の民人を殺し、その牛馬・粟米・貨財を奪い取り、その事績を勲功と誇り竹帛に書き、金石に鏤刻(るこく)し、銘を鐘鼎などの器物に刻み、後世の子孫に傳[伝]え遺(のこ)して、私ほど領地を多く取ったものはないと言ったとしましょう。【2】

「では、他国を併合したり、他国の軍隊を全滅させたり、他国の人民をむやみに殺したりすれば、その報いを受けるのはだれでしょうか」と、#子墨子 は問うた。 #斉の大王 は、俯(うつむ)いたり、上を仰(あお)ぎみたりして思いめぐらしていたが、ついに答えた。 「このわたしが、報いを受けるのだ」【2】

#子墨子、#魯陽文君 に謂いて曰く、其の鄰國を攻め、其の民人(たみびと)を殺し、其の牛馬・粟米・貨財を取りて、則ち之(これ)を竹帛(ちくはく)に書き、之を金石に鏤(ちりば)め、以て銘を鐘鼎(しょうてい)に爲(つく)り、後世の子孫に傳[伝]え遺(のこ)して曰く、我が多きに若(し)くこと莫(な)しと。【1】

#子墨子 曰く、「刀は則ち利なり。孰(いず)れか将にその不祥を受けん」。大王曰く、「刀はその利を受けて、試みる者その不祥を受けん」。子墨子曰く、「国を幷(あわ)せ軍を覆(くつが)えし、百姓を賊殺す。孰れか将にその不祥を受けん」。大王俯仰してこれを思いて曰く、「我その不祥を受けん」。【1】